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オプジーボなど新薬も。「全身化学療法」の今

1万人以上のがん患者を治療する放射線治療専門医が語るがん治療最前線

 副作用は抗がん剤の種類によってさまざまです。それらへの対策のノウハウも確立されつつあり、かつてのように副作用に苦しむことは減ってきています。

 いずれにしても、毎年何らかの新薬が登場するほど、全身化学療法はめざましく進歩しています。それに合わせ、薬を適正に扱える専門家としての腫瘍内科医も増えています。全身化学療法といえば苦しい副作用ばかりが強調される一方、効果があまり期待できないとする時代は終わりつつあります。

■それぞれのステージの患者さんに対する抗がん剤の意義

 ステージⅡからⅢは局所進行期と呼ばれます。検査上は全身に転移を認めませんが、一定の割合で微小な転移が隠れています。その微小な転移を念頭に置きつつ、進行した局所病変(最初にがんが発生した病変とそのそばのリンパ節転移)に対してしっかりと治療を行っていかないといけません。

 これらのステージの患者さんでは、手術や放射線治療で局所病変をしっかり治療し、同時に全身化学療法で、全身に潜在的な微少転移を縮小もしくは死滅させます。それによって、再発リスクを抑え、治癒もしくは延命につなげます。

 ステージⅣの患者さんでは、今のところ強い局所治療を行っても、押し並べてみるとメリットが少ないケース多いようです。
 ですから、全身化学療法を行うことで、がんの沈静化を図り、QOLを保ってがんと長くうまく付き合うことが治療の主体となります。薬への感受性が高い一部のがん(精巣がんや悪性リンパ腫など)を除いては、残念ながら全身化学療法だけでがんを治癒させることは困難です。

 そのためステージⅣの患者さんに対して抗がん剤治療を行う場合、医師はあくまでQOLを保ってがんと長くうまく付き合うためにその使用を提案しています。

 一方で、患者さんは「完治させよう」という強い思いがあります。だからこそ、副作用のある抗がん剤を受ける気になるのでしょうし、実際に副作用にも耐えられるのでしょう。
 ただ、実際には、「完治させよう」という思いはなかなかかないません。患者さんと医師では最初から設定するゴールが違うわけで、ここにお互いの信頼関係を壊してしまう原因があります。

 副作用が少なくなった今日の全身化学療法は、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高く保ちながら日常生活を長く続けるために行うと思ってください。

 今どんなに健康な人でも、必ず死は訪れます。言ってみれば、私たちは毎日延命しているに過ぎません。完治だけを目標とするのではなく、残りの人生を安らかに、そしてやりたいことをするために、抗がん剤治療を行ったほうが良さそうだと思えたときに、全身化学療法は非常に意味あるものになるはずです。

『最新科学が進化させた世界一やさしいがん治療』より構成>

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武田 篤也

たけだ あつや

放射線治療専門医。1994年、慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院、防衛医科大学校病院、都立広尾病院にて放射線治療診療を行う。2005年に大船中央病院に赴任し、放射線治療センターを開設。以降13年あまりの間に、全国有数の高精度放射線治療施設とする。SBRT(体幹部定位放射線治療)を2000例以上行う(肝臓がんは世界1位、肺がんは国内2位)。70編以上の医学英文論文に加えて専門書『The SBRT book』(篠原出版新社刊)を執筆。中東の某石油産出国の国王に呼ばれ、診療を行った経験もある。


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